労働基準法16条では、「使用者は、労働契約の不履行についての違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」としています。
つまり、違約金や損額賠償の額をあらかじめ決定して置くことは、法律により禁じられているのです。
しかし、損害賠償額が予定されていたものではなく、実際に労働者が業務上横領など会社に与えてしまった損害については、会社は労働者に対して損害賠償請求をすることができます。
ところが、この損害賠償額を一方的に賃金と相殺して回収することは、「賃金の全額払いの原則」の抵触することになり、認められません。
つまり、いったん賃金を支払い労働者に弁済を求めるという形をとらなければならないということです。これは、月例給与のみならず、賞与や退職金についても同じことがいえます。
中小企業退職共済などにしても、例え業務上横領で懲戒解雇したとしても会社は解雇者の退職金からの賠償金の相殺ができません。損害賠償請求して別段で返済してもらう形となります。
ただし、裁判例においては、賃金の全額払いの原則は「使用者が労働者に対して有する債権を持って労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨である」としながらも、「合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てして相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である」として、合理的な理由が客観的に存在することを前提に合意による相殺を認めています。
したがって、原則的には損害賠償額と賃金を相殺することはできませんが、労働者の合意を得ることができれば相殺できるということになります。
全額払いの原則に違反した場合に、使用者は労働基準法120条1号により、30万円以下の刑罰を科される場合もあるため、労働者の合意がとても重要なものとなります。
労働者の権利が守まれすぎな気がしますが…